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vol.97 井筒 陸也#15『左利きのディフェンダーらしいプレーを見せたい』

大学ではチームの
マネジメントだけを考えていた

子どもの頃は喘息があり、体が弱かったという井筒選手。小学1年生の時、勧められて始めたのがサッカーだった。地元・大阪市のエルバFCで、このクラブを創設した中島亮コーチ(現・阪南大学キーパーコーチ)に中学校卒業まで指導を受ける。
「コーチに出会ったことがターニングポイントでした。高校は和歌山の初芝橋本高校に進んだのですが、偶然、コーチもこの学校にキーパーコーチとして就任したんです。恩師であるコーチがいなかったら、サッカーは中学で辞めていたかもしれません」

高校時代は大阪から和歌山まで、往復3時間かけて通学していた。
「毎朝5時に家を出て、7時からグラウンド整備と自主練習をしてから授業、放課後は夜9時過ぎまで練習して11時半に帰宅という生活でした。3年生になってからは、キャプテンとして勝たなければいけないというプレッシャーで食事がのどを通らない時期もあったのですが、そういう経験を経てメンタルも強くなり、強い自分を確立できたと思います」

大学でも主将として活躍。関西選手権、関西学生サッカーリーグ、総理大臣杯、インカレで優勝し4冠を成し遂げる。
「ただ、大学卒業後、プロになるつもりは全くなかったというか、そういう話もなかったんです。主将となった4年生の時はチームを勝たせることだけを考えていました。プレーで表現することよりも、チームを日本一にすることで評価されたいと思っていたし、それが自分の充実感にもつながっていたんです。サッカーにどう向き合うか、サッカー部をどうマネジメントすべきかだけを考えてプレーしてきた結果、プロサッカー選手になれたと思っています。ヴォルティスへの練習参加をきっかけにオファーをいただいた後、2カ月ぐらい考える時間があり、同期でプロに行く選択をした人、行きたくても叶わなかった人などに話を聞いたんです。それによって、就職するよりも“個人事業主”として自分の力で生きてみたい、もっとこのチームのことを知りたいと感じて加入を決めました。大学の同期でJ1のチームに加入した呉屋大翔(現・ガンバ大阪)選手や小林成豪(現・ヴィッセル神戸)選手と対戦したいと思ったことや、大学の監督に一緒にサッカー界をよくしていこうと背中を押されたことも大きかったです」

チームのためにできることをすべてやれる選手に

ヴォルティスに加入後、試合に出場するチャンスが得られない中、今日まで1度も休むことなくトレーニングを続けてきた。
「高校や大学でも試合に出られない悔しさを経験してきたので、認めてもらえない時期に何をするべきかを考える力がついたと思います。自分は環境が変わってもすぐに活躍できるタイプではないことも分かっていたので、試合に出られない間はどんな相手、カテゴリーでも通用する選手になるためのトレーニング期間だと思って毎日を過ごしてきました。プロになってみて、大学の時以上に個々の能力が求められ、ディフェンダーとしてフォワードを抑えることがより重要だと感じたので、自主練習ではその向上を意識して取り組んでいます。キャンプの時は吹っ飛ばされたり、止まるべきところで止まれなかったりするなど、最初に見えた課題がフィジカル面でした。今は体重も増え、当たり負けしなくなった実感がありますし、佐藤選手や長谷川悠(現・清水エスパルス)選手のような選手とマッチアップすることでスキルも身につきました。そこはディフェンダーとしてのメリットだと思うので、これからも体をつくり、技術を磨いていきたいです」

試合に出られない状況の中、大学時代から意識してきた「自分をマネジメントする」という意識が活きた。
「練習試合など、どこにピークを持っていくかを決め、トレーニングメニューを組み、自主練習や筋トレ、体のケアをしています。有り難いことに今は大学の夏休みと同じぐらい、サッカーにかける時間があります。社会人チームで朝から夜まで働いた後にサッカーをやっている大学の同期もいるので、そういう仲間の存在を忘れず、自分はその分の時間を自主練習や今年から取り組んでいる英会話の勉強などに使っていきたい。そうでなければ、1日、1年はあっという間に過ぎてしまうと思うんです」

試合に出られない時期を過ごすこともいい経験だと捉えているが、チームが勝った時に悔しさを感じることもあると語る。
「ふだん一緒に練習している選手たちの活躍がうれしい反面、力になれていない自分が悔しいですね。大学の時は試合に出ていなくても勝ちを素直に喜べたので、自分がチームのためにできることをすべてやった上で試合に送り出せた時、その悔しさもなくなるんじゃないかなと。“そういう悔しさは持っていてもいい”と言ってくれる人もいるのですが、全員が心から勝ちを喜べるチーム作りをしてこそ強くなれるというのが持論です」

緊張よりもチャンスをもらった喜びが大きかった

公式戦に出てチームに貢献したいという気持ちを持ち続け、いつでも試合に出られる準備をしてきた井筒選手。ついに8月27日に行われた天皇杯1回戦のFC徳島セレステ戦で90分間フル出場を果たし、失点もゼロに抑えた。
「初めての試合ということでもっと緊張するかと思っていたのですが、それ以上に試合に出られた喜び、チャンスをもらってプレーできた喜びの方が大きかったです。試合では特に中盤の選手たちがいい動きをしていて、早い段階からオープンスペースにボールを送って仕掛け、ゴールまで持っていくことができました。守備としても失点ゼロに抑え、自分も最後のホイッスルが鳴るまで集中して良さを出せたと思います。結果的に得点差は大きかったですが、相手も90分間ずっと集中している状況で、自分たちも声をかけ合って最後まで得点を目指すことができました。試合に臨む流れも分かりましたし、勝利してサポーターの方たちと喜ぶことができ、サッカープレーヤーとして最高の1試合になりました」

天皇杯も続く中、リーグ戦も最終節まで12試合となった。J1昇格を果たし、来シーズンは新たなカテゴリーでプレーしたいという気持ちも強い。
「特にJ1の試合ではディフェンダーの選手が前を向いて、相手を背負うような位置でボールを受ける場面が多く、それは自分も大事にしているプレーです。自分のように左足が利き足の選手はあまりいないので、普通だったらクリアされてしまうようなボールもマイボールにしてディフェンスラインから攻撃参加していくようなプレーを見せていきたいですね。きっとファン・サポーターも、またJ1で戦うヴォルティスを見たいはずなので、その思いを実現するために残りの試合をどう戦っていくか、選手各自が1試合1試合の意味を考えていかなければいけないと思います。試合に出て活躍することがサッカー選手としては大前提ですが、例えベンチに入れなかったとしても、出場する選手たちがよいパフォーマンスをできるように、さらにチームが1つになれるように力を注いでいきたいです」

チームが1つになるために力を注ぎたい

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